エンタープライズ寄港阻止の写真が
挿入されているので,
現在が1969年ころの佐世保.
1941年と1945年とその後が
過去として映し出される.
「現在」は
大阪万博の時代であったが
このような映画が撮影できる町がまだまだ
日本には存在していた.
千里ニュータウンからすこし離れれば
焼け残った長屋やバラック家屋があった.
大阪には水田も多くあり,
農村部では藁ぶき屋根も残っていた.
1968年か1969年の日本で
撮影されているのだ.
私は,貧しいし,じぶんで働く年齢でもなかったし,
描かれていることについては
同和教育の授業時間かぎりの感覚でいたので
この映画はずっと知らなかった.
いくつものコメント,レビューで
時代やそれぞれの問題について
語られているのを読んで,
理解できていなかったこと
見落としていたことに気づいた.
**
みる者は3人の登場人物の視点にたてるように
構成されている.
開業医の宇南(鈴木瑞穂)
被差別部落の少女,徳子(紀比呂子)
被爆者部落の少年,信夫(寺田誠)
宇南が,この物語全体の問題を
把握し,
それから逃れようとしてきた大人.
彼は,佐世保のことを
よく理解している.
徳子は暴行を受け,
問題の核心をつかんでいるが,
じぶんの母親までまきこんでしまう.
信夫は逃れようとする若者であるが,
どこまで逃げればいいのか.
見る人により,どんな視点にたつかが
ちがうしかけになっていて,
物語の展開は
真正面から複数の社会問題をとらえていながらも
サスペンスとして一級である.
在日朝鮮人差別
部落差別
原爆投下
被爆者差別
原爆病
炭鉱労働者
米軍基地
赤狩り
強姦・暴行
と
「格差」
これらの問題の根っこは
やはり日本の社会にある.
過去の報道写真をはさみながらも
問題を象徴的に構成した映像もある.
とくに
俳優たちの演技のすごさ.
こんな優れた映画が作れたということに驚く.
【追記】
wikiでみたら,熊井啓監督の作品はテレビ
いくつか見ていたようだ.
監督名や題名を憶えるつもりのなかったことを後悔する.
なんとなく覚えているのが
『帝銀事件 死刑囚』1964, テレビ
『海と毒薬』1986,テレビ
『ひかりごけ』1992,ツタヤ
『日本の黒い夏―冤罪』2001,Gyao
『帝銀事件』がとくに面白かった.
『日本の黒い夏』は数年前Gyaoでみたが
やや期待外れだったような.