『リターン』2018
このドラマの眼目は,やはり主役の途中交代であろう.
各回完結のエピソードではなく,
長いひとつのドラマの主演が途中で代わること
を受け入れるのは,
私たちの想像力といえる.
結局はこの人でよかったんだ
と思ったのは私だけのようではない.
コ・ヒョンジョンを「善徳女王」で知って,
「レディプレジデント」,「女王の教室」,「ディア・マイ・フレンド」
と見てきて,『リターン』の主演はふさわしいと思って
見始めたが,
途中降板したという先入観があるからか,
やや場にそぐわない印象をもっていた.
さらに
ぜんぜん知らないパク・ジニが「チェ・ジャヘ」として
登場したとき,何ともたよりないサスペンスの主役に見えた.
が,
回をおうごとに,その脆さ,危うさが演技として
必要な過去の持ち主であることがわかってきた.
これは,コ・ヒョンジュンのはじめた演技とは
少しちがうものだな,と.
いつのまにか,
新しいチェ・ジャヘが,ドラマに強烈な陰影を
加えるようになった.
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このドラマは,格差や社会悪,腐敗権力といったものを
少し距離をとっていて,
人間個人のもつ,無意味で残酷な欲望と罪,それを裁く法律を
捕らえようとしている.
極端に個人的な犯罪が,
現代社会においても
権力や財産しだいでは,
罰せられない法秩序がある.
法は弱い者を護ってくれるわけではない.
『リターン』は4人の準主役の30過ぎの男たちのドラマが
傑出している.
とくに,
シン・ソンロクとポン・テギュの2人が演じる
ソフト会社の社長と大学教授の日常は
私たちの想像力をこえているのが
かえってリアリティを感じさせる.
とんでもないミステリーは
筋だけとれば,
予測可能ではあるが,
事件そのものよりも,日常的な悪事にこそ
真実が隠されているかのように
冷たく目を覆いたくなる.