ドナルド・キーン『日本を寿ぐ―九つの講演』新潮選書,2021
ドナルド・キーンほど,日本人らしい日本人として
日本文学を研究し,愛した,
ふつうの日本人にもわかりやすい文学者を
私たちは知らない.
しかし,私は知っているわけでもない.
新聞連載ですこし読んだか,
テレビ出演くらいでしかしらず,
2019年,日本で亡くなっていたことも
知らなかった.
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I
「日本文化の国際性」
「文化の衝突,内なる対立」
「国際化時代における京都文化の役割」
II
「松浦武四郎を読んでみて」
「明治の日本人は世界をどう見ていたか」
「明治天皇と日本文化」
III
「日本の短詩型文学の魅力」
「啄木を語るー啄木の現在性」
「わが愛する鏡花」
キーンを紹介するにふさわしそうな
ちがった年代で,ことなった地域・会場の
講演で,しっかり活字として残っているもの9編を
選んであるようだ.
I, II は日本文化論,日本人論.
日本のいいところをとりあげているのではあるが,
それは,じっくり反省してみれば
日本としては特殊な例ととして示されている.
江戸時代の「鎖国」は,日本独自の文化を
生み出したが,後半は
ネタがつきていた,という指摘.
鎖国は
戦争のない平和な時代をもたらしたが
そこでは,幕府批判を徹底的に封じ込めた
政権があったこと.
すなわち,自由がなかったこと.
キーンが来日した戦後
貧しい生活ではあったが,
京都の文化はまだ残っていた.
しかし,グローバリゼーションの波で
日本人はじぶんたちのよき文化を
忘れていった.
しかし,まだ少しは残されていること.
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ドナルド・キーンは
日本文学研究者らしく
古典主義ではあるが,
それは未来にむけられている.
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IIの明治天皇については,
キーンによる天皇制の理想モデルー
〈何もしない天皇〉
をイメージさせられる.
彼が,日本人にたいして
示してくれている
モデルである.