佐々木徹訳『荒涼館』
海外文学というかディケンズを
よもうとしなかったことを
後悔させる作品である.
あと10年,はやく気づいていたら
じっくり読むことができたろう.
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岩波文庫で4巻とも500ページ,
全2000ページの大作.
各巻頭には「主な登場人物」のリストと
「荒涼館のロンドン」「荒涼館の裁判所周辺」という2つの地図があり,
人名や地名が覚えれない私には
ほんとに役に立つ参照ページであった.
さらに,第2巻からは前巻の「あらすじ」が
見開き2ページできっちり
まとめられていて
訳者佐々木徹の仕事ぶりがうれしい.
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第4巻は,さまざまな因縁と謎が
ひとつの悲劇に収斂していく.
「推理小説」的要素といえば
あまりにも文学的で
翻訳であっても
ディケンズの情緒的な文章も
伝わってくる.
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今朝倒れた時の彼は
威風堂々たる端正なジェントルマンだった.
調子の悪いところが若干あるものの,
立派な押し出しで,
肉付きのいい顔をしていた.
今ベッドに寝ている彼は
頬のこけた老人で,
よぼよぼの変わり果てた姿を
呈している.(p.194)
事件の全貌が
みえてきそうになることで,
主要な登場人物が
ジャーンダイス対ジャーンダイス裁判の
進捗とはちがい
それぞれに追い詰められていく.
エスター(サマソン)は
主役の位置を獲得しても
彼女じしんを救う手立てや機会を
みつけることができない.
ディケンズは
読者の想像する方向に物語を
ひっぱっていくが
読者が安堵するような思想や人生を
みせてくれるわけではない.
私たちは,将来を予想するように
現実を夢想し
思考の範囲で最良の状況と最悪の結果の
あいだをいったりきたりするだけである.
【ついでに;私的ディケンズ経験】
はじめて読んだのは
①中2か中3の国語の授業で旺文社文庫『クリスマス・カロル』(1969神山妙子)
②高1の夏休み『ピクウィック・ペーパーズ』
これは図書館で借りた.白いきれいな装丁で
辞書より分厚い1冊であり,
いまネットで調べてもでてこない.
北川悌二訳『ピクウィック・クラブ』(三笠書房、1971)
が時期としてはあうのだが,
題名は『ピクウィック・ペーパーズ』で記憶しているから
ちがうような.
これが,あまりおもしろいと思えなかったので,
50年以上,よまないでいた.