『2037』モ・ホンジン監督,2022
(駐大阪韓国文化院「大阪韓国映画祭」)
高校中退した19歳のユニョン(ホン・イェジ)が,
アルバイトの帰りに
強姦され,その犯人を殺してしまう.
過剰な反撃と報復は「正当防衛」とは
認められない.
しかも顔見知りであり,
死んでしまっているので
強制性交かどうかも不明,とされる.
私たちは,その男と犯行を目撃しているし
どうして,ユニョンが反撃にでたのかも
知っている.
男が犯人であり,殺されてもしかたがない
ことを(男の観客として)
恥じ入るのだが,
映画のリアリティは,現実社会とおなじく
冷徹に
既存のルールにしたがい,社会を護る.
その社会とは,誰のための社会か.
映画の発端(「起」?)で
私たち男は,
その殺された男の邪さを共有し,
罪悪感にさいなまれながら
このヒロインの運命が好転することを
祈るしかない.
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本筋は,刑務所の女囚たちの
生き方であり,人生観のドラマだ.
最年少の囚人として
刑務所暮らしになれてきたころ
妊娠に気づく.
堕胎について
柔軟に対応できない韓国の刑務所では
強姦が証明できないかぎり
堕胎手術が受けられないのだ.
この新しい命をきっかけに
同房の女たちは
絶望や閉塞感から少しずつ
前をむくようになる.
自分をみつめなおしたり,
家族を思い出したりすることで
他者への思いやりをとりもどす.
コメディ・タッチな日々のなかに
核心にせまる問いかけがある悲劇.
そのこたえの半分は
私たち自身で(女たちとともに)
考えるようなしかけがいくつも用意されていた.
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席をたつとき,私の左隣りの
女性2人
「もう,あとの方,
マスクで涙ふいてられへんから,
マスクびちゃびちゃになったわ」
「拭いてるマもおしかったから
私もマスクもとりかえたいわ」