石塚裕子訳『デイヴィッド・コパフィールド(四)』岩波文庫
私が爺さんであるからか
この物語で
父親の役割と不在が
推進力になっていることに気づく.
主人公の不幸が
父親の不在による母の再婚,
継父による虐待にはじまる.
第4巻の大詰めで,あこがれのドーラと結婚できたのも
彼女の父が急死したことによる.
父または夫が,
彼女たちの日常をかきまわしてきているのにくらべて
現実をしっかりみすえ整理しているのが
女たちでもあった.
しかし,
しっかりと父的存在として
努力しているのは
かけおちしたエミリーを探す旅にでたペゴティー兄であった.
エミリーは
漁船で死んだ同僚の遺児であり,
「かあちゃん」とよぶガミッジさんは
自分の妻ではなく
海で死んだ友人の妻である.
そして,
純粋な人間になってしまっている
ミスター・ディックこそ
コパフィールドと
その周りのひとたちが
喪失した人間らしい気持ちを
とりもどす手助けをする
父的存在である.