たけの湯な日記

個人的な感想ー画像の「引用」が不安です.

ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド(五)』(岩波文庫,全5巻)--調和をもとめる世界観

石塚裕子訳『デイヴィッド・コパフィールド(五)』(岩波文庫

残念というか,こまったことに
第5巻は書店ではみつからなかった.

ネットでみると
そもそも第1巻から絶版.
小さな書店に残っているかもしれない程度.

中古で入手するしかない.
※近所の図書館には,岩波文庫はほとんど
購入されない.

新潮文庫版は売っているようだ.

**
ディケンズの「自伝的長編」ということだが
想像では,自伝からはほど遠い.

エミリーを
あてもなくさがす旅を続ける

ペゴティー兄の姿は,
私たちがもっとも認めたい
人間の強く美しい愛
であるし,

エミリーに裏切られた
許婚ハムは.
エミリーへの思いと
ステアフォースに対する姿勢は
悲劇的であるのに
崇高な精神をもっていた.

『デイヴィッド・コパフィールド(五)』家族と絆を深めるミコーバー(中央)

借金に苦しみ,
頼ったユライア・ヒープに
騙され,搾りつくされているミコーバー氏に
困窮の状況に
残されていたものは
絶対的な自尊心と良心と
守るべきひとたちへの愛であった.

資本主義が産業を巨大化しつつあった
19世紀中葉のイギリス社会では
この3人は
最下層に属し,
さらに
不幸のどん底に突き落とされた人たち
であった.

**
物語のはじめ,
パフィールドが幼かったころ
母の葬儀をおこなった
オーマーさんは
今は老いて
車いすでくらしている.
※19世紀だから,
木椅子に簡素な車輪をつけたような
ものをイメージしました.

人生の帳尻を合わせる,
そんな時が
近づいてきますとね,

人間どんなに達者でやってたところで,

よりにもよってまた,

カタカタと音を立てる
人生二度目の乳母車に乗せられ,
引きずり回される身にもなりますとね,

できることなら,
親切の一つも施して,
大喜びしたいものなんですよ.
(p.63)

文章家として
名声を得つつあるコパフィールドに言う.
「ですからね,
あんたさんが
正しいって思うことでしたら,
何だってそれに従いますんで」
「どこへわたしの気持ちを
一口送ったらいいのか,
ご一報くださいね」

彼らにはみえていたし
わかっていた.

だから
私たちは共感できる.

**

シルクハットをかぶったジェントルマンたちは
自分たちに危害をおよぼした
犯罪者の(するはずもない)「改悛」を
めざす制度―「腐った道楽」(p.367)

に気まぐれな興味をしめすだけだった.

『デイヴィッド・コパフィールド(五)』服役中のユライア(左)とリティマ―(右)

エミリーやマーサは
イギリスの社会では
生きることができなかったし,

返済不可能な債務をかかえた
ミコーバー一家も
イギリス国内でいきる希望もなかった.

このどん底の人たちをひきつれて
ペゴティー兄は
新天地オーストラリアへむかった.

『デイヴィッド・コパフィールド(五)』船内での別れの握手コパフィールド(左),ペゴティー兄(右.その右手前がミコーバー)

読者は,
「赤ん坊奥さん」のドーラが
衰弱していき,
すぐに死ぬことを予感できる.

主人公は
長い旅にでて,
じぶん自身をとりもどしていく.

そこは,男のつごうによる
じぶんへの言い訳だ.

じぶんが愛してきたのは
アグネスだった
としっかり自覚したのだ.

『デイヴィッド・コパフィールド(五)』十年以上すぎて,ペゴティー兄が一時帰国した

【追記】
この1年でディケンズの3作品を読んだが
面白さの順位として今のところ

①『荒涼館』(2022読んだ)
②『大いなる遺産』(2022)
③『クリスマス・キャロル』(中学生のとき)
④『デイヴィッド・コパフィールド』(2022)

⑤『ピグウィック・ペイパーズ』(高1のとき)


⑤はおもしろさがわからなかっただけかも.