木下恵介『カルメン純情す』松竹, 1952
テレビで木下恵介「劇場」とか「アワー」というのが
毎週あって,
見るかどうかは,タイトルで判断していました.
全体的に,ホームドラマの印象があって
戦中派むけの番組に思えたから
すぐにみなくなりました.
映画監督だと思っていませんでした.
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『カルメン故郷に帰る』(1951)の続編として
『カルメン純情す』を見ました.
大自然にある故郷に帰ってきて,
戦後の都会の影響を受けながらも
つかのま人間性をとりもどししていくカルメンが
描かれたのに対し,
「純情す」は,都会で生きるカルメンたちの現実が
あります.
戦後の芸術,風俗と政治が直結した
抽象的な都市にひとびとは暮らしていました.
木下恵介は,映画のほとんどを
傾いた画面で構成して,
落ち着きのない,不安定な空間を
映し出していました.
それらがすべて
カルメンが恋心を抱く前衛芸術家須藤(若原雅夫)の屋敷を中心に
都市空間全体がねじれているかの印象を与えます.
須藤が持参金をあてにしている婚約者,千鳥(淡島千景)の
母(三好栄子)は日本精神党の反動的政治家でありながら
その家の中は「前衛」的な感覚に浸食されています.
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私は,
この映画を見たことがある!
と,心のうちで確認しました.
「原爆ばあさん」とよばれる
須藤の女中(東山千栄子)のツートンカラー(画面では黒白)の
服装からであり,
この服をみたことと
彼女が原爆への不安をつねに口にすることに
既視感があるのです.
都会にはびこる
男のでたらめさと
女の政治性,
当時の社会風潮を,
木下恵介は批判的に映し出しています.
ストリッパーのカルメン自身は
須藤に片思いすることで
人の前で
服を脱ぐことに疑問が
わき,やがて
拒否することになります.
前作で,
ストリップショーを「芸術」だという
当時の風潮を
コミカルに描きました.
今回,木下は,
カルメンの仕事として
ストリップと,
新しい仕事,絵画モデルの
どちらも「芸術」といってのける
時代性を
揶揄しているのです.
実験的なカメラワークとちぐはくな会話による
政治的な
ブラックコメディーでありながら
骨としては
ストリッパーとしてしか生きる手立てのない
中年にさしかかる女性の戦後の物語が
おりこまれています.
***
[追記]
『カルメン純情す』は
映像だけではなく,音楽も現代的.
人物たちのやりとりは
かつて学生演劇でみたような
シュールな会話劇でもあり,
いくつものデモのシーン
政治演説のシーンもふくめて
戦後史の資料として
価値があるものです.