生誕100年,高峰秀子『放浪記』--東宝創立30周年記念作品
成瀬巳喜男監督『放浪記』東宝1962年
『放浪記』は森光子を思い出しますが,
見たこともなかったし
林芙美子のことも知りませんでした.
高峰秀子生誕100周年というひかえめな
風潮がなければ,高峰秀子じたいに
興味をもつことがなかったかもしれません.
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これは面白い映画でした.
林芙美子が体験しただろう
日本社会の底辺にいる人々のくらしと,
東京が牽引した大正時代の風俗が
記録されています.
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ふみ子幼少期の家族3人の行商は
短時間なのですが,
辺境の地を移り歩き旅をする行商人の
極貧の生活を美しくも物語っています.
昭和・戦後の海浜や住宅の風景は
戦前の風景からそんなに離れていませんでした.
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若い娘が金をかせぐにには
料理屋かカフェーの女給.
客に酒を飲ませるのが仕事.
ふみ子は,カフェーの2階,
あるいは男の下宿で
原稿を書きます.
詩を読み,じぶんでも詩作をする
彼女は,
カフェーにきて
女給たちを相手にする
文学青年に惚れるのでした.
色男であるほど,ひどいのが常.
文学好きのふみ子も
ぶ男だが親切な印刷工の安岡(加東大介)よりも
男前にひかれ,信じて,
尽くすのでした.
見ていて,色男たちの自分勝手さに
耐えている彼女が
後に流行作家となったのを知っていても
はらはらしますし,
何で気が付かんのかなと
やきもきします.
破滅するような生き方.
1人目の男は写真だけで,
伊達(仲谷昇)には二股の上に女中呼ばわりされます.
3人目,福地(宝田明)は文才もなく狭量で猜疑心が強く肺病.
金策に行き詰まり,
借用のために純朴な安岡は彼女に呼び出されました.
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ふみ子は自分のどん底生活を文章にすることで
出版界で芽をだします.
むさくるしい木賃宿で夜中にも小説を書き続けました.
周りに男たちがほぼ雑魚寝.
そこに売春婦が逃げ込み,
ふみ子は巻き添えをくい連行.
横にいた絵描き(小林桂樹)に原稿をたくします.
『放浪記』が世間に認められ,
出版記念パーティーが催されます.
そこに,病躯の福地が現れ
祝辞を述べたのでした.
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最終シーン.
庭のみえる座敷,
編集者が何人かまっています.
初老のふみ子は作家先生として
週に何本も書かなければならず
数日ねむれません.
でも,高齢の母親とくらし
古い知人が訪れてきたようです.
その間にも
自分の財布をあてにして
慈善団体,
遠い親戚,
同人雑誌などが寄ってきます.
文机でうたた寝.
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15年戦争の時期がぬけています.
それでも,
人生の数年間を中心に
女の一生の姿を描いている作品でした.