たけの湯な日記

個人的な感想ー画像の「引用」が不安です.

生誕100年,高峰秀子『放浪記』--東宝創立30周年記念作品

成瀬巳喜男監督『放浪記』東宝1962年

『放浪記』は森光子を思い出しますが,
見たこともなかったし
林芙美子のことも知りませんでした.

高峰秀子生誕100周年というひかえめな
風潮がなければ,高峰秀子じたいに
興味をもつことがなかったかもしれません.

***
これは面白い映画でした.

『放浪記』カフェーで働くふみ子(高峰秀子)が親分にたてつく

林芙美子が体験しただろう
日本社会の底辺にいる人々のくらしと,
東京が牽引した大正時代の風俗が
記録されています.

***
ふみ子幼少期の家族3人の行商は
短時間なのですが,
辺境の地を移り歩き旅をする行商人の
極貧の生活を美しくも物語っています.

昭和・戦後の海浜や住宅の風景は
戦前の風景からそんなに離れていませんでした.

**

若い娘が金をかせぐにには
料理屋かカフェーの女給.

客に酒を飲ませるのが仕事.

『浮浪記』母(田中絹代),ふみ子.好意をよせる安岡(加東大介

ふみ子は,カフェーの2階,
あるいは男の下宿で
原稿を書きます.

詩を読み,じぶんでも詩作をする
彼女は,
カフェーにきて
女給たちを相手にする
文学青年に惚れるのでした.

色男であるほど,ひどいのが常.

『放浪記』女給たちに文学を語る男前の伊達(仲谷昇

文学好きのふみ子も
ぶ男だが親切な印刷工の安岡(加東大介)よりも
男前にひかれ,信じて,
尽くすのでした.

見ていて,色男たちの自分勝手さに
耐えている彼女が
後に流行作家となったのを知っていても
はらはらしますし,
何で気が付かんのかなと
やきもきします.

破滅するような生き方.

『放浪記』女給を見下す土建屋に酔っぱらってたてをつく.

1人目の男は写真だけで,
伊達(仲谷昇)には二股の上に女中呼ばわりされます.

3人目,福地(宝田明)は文才もなく狭量で猜疑心が強く肺病.
金策に行き詰まり,
借用のために純朴な安岡は彼女に呼び出されました.

**

ふみ子は自分のどん底生活を文章にすることで
出版界で芽をだします.

むさくるしい木賃宿で夜中にも小説を書き続けました.
周りに男たちがほぼ雑魚寝.
そこに売春婦が逃げ込み,
ふみ子は巻き添えをくい連行.
横にいた絵描き(小林桂樹)に原稿をたくします.

『放浪記』日夏(草笛光子:左)にほれた白坂(伊藤雄之助)は女流文筆家をむすびつけた.

『放浪記』が世間に認められ,
出版記念パーティーが催されます.

そこに,病躯の福地が現れ
祝辞を述べたのでした.

**
最終シーン.

庭のみえる座敷,
編集者が何人かまっています.

初老のふみ子は作家先生として
週に何本も書かなければならず
数日ねむれません.

でも,高齢の母親とくらし
古い知人が訪れてきたようです.

その間にも
自分の財布をあてにして
慈善団体,
遠い親戚,
同人雑誌などが寄ってきます.

文机でうたた寝

**
15年戦争の時期がぬけています.

それでも,
人生の数年間を中心に
女の一生の姿を描いている作品でした.