小津安二郎『風の中の牝鶏』---戦後の日常の光景
小津安二郎監督『風の中の牝鶏』松竹1948
まだ中年のころ
小津ブームがあって,
テレビでも本でも特集があった.
どうしても,中断.
老年にみていこうとするのは
残りの人生を考えると
避けてばかりはいれないから.
中高生のころの,勉強を思い出す.
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『晩春』(1949)と『麦秋』(1951)は
原節子が魅力的であった.
そんな明るいお嬢さんがいれば
家族も穏やかにくらせる.
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『風の中の牝鶏』(1948)は小津作品の中でも
系統がちがうらしい.
3つしか見ていないことと
2つは原節子で,これは田中絹代だから
たしかに違う.
作品評価は低い.
見慣れてきたためかもしれないが
私には,この物語と光景のほうが
おもしろかった.
終戦で,ひき上げてこない夫,生死もわからない.
工場地帯の家に間借りしている時子(田中絹代).
幼い息子が大腸カタルになる.
前払いの入院費を工面するため
一度だけ売春をする.
その後,夫(佐野周二)が復員する,という物語.
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映像に残っている風景は
東京だろうが
大阪にも似た風景があった.
どこにでもあったような町だ.
町の個人医院の病室は畳敷きであった.
かえって高くついたと思う.
弟のとき産院にいって
そこが私が生まれた部屋でもあることを
きかされて,古い旅館のようであったのを
記憶しているだけだが.
繰り返し,
映し出される
まがりしている2階への階段.
この階段は,
裕福ではない民家の階段としては
少し長く,高さもあるように見える.
時子の
暮しぶりだけではなく
心情の変化とドラマの進行を表していた.
家主家族は1階で暮らす.
金のために部屋貸ししているのだが
親切心をもちあわせている.
たまたま焼け残った住宅であろうか.
大阪には戦後20年くらいまで
バラック住宅も残っていた.
今でも,市内には
焼け残った長屋が利用されていて
重要な文化財となっている.
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妻が,こどものために売春したことを知って
夫は苦悩する.
これが,類型的であるから評価が低いのだろうか.
しかし,
映画は娯楽第一であり,類型的に風俗を
描くことで,
多くの人々が共感できる作品となる.
私には,よくできているように思えた.
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