鈴木亮平の『エゴイスト』
松永大司監督『エゴイスト』2023,東京テアトル
大阪でふつうにくらしていると
ゲイの人をみかけることはあっても
暮しで関りをもつことは
ほとんどない.
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テレビの『昨日何食べた』は
はじめはおもしろく感じたが
私たちと何ら変わりない生き方を
示しはするが,
設定に頼っているだけに思えた.
映画『チョコレートドーナッツ』(2012)の
投げかける問にくらべれば
コメディにすぎない.
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『エゴイスト』には原作があり
作者の自伝的小説だという.
2時間のドラマであるから
私たちは悲劇的な生き様しか
想像はできない.
鈴木亮平の演じる「斉藤」は
じゅうぶんな主役でありながら
語り役として全体を支えている.
急激に愛し合うようになった「中村」(宮沢氷魚)との
関係の深さは,リアルなセックスで
描き,
若くて「きれい」な中村の
男色売春により
同性愛の性交渉の現実を
見るものに実感させる.
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前半はゲイの性を露骨に
物語ることで
中盤,後半の生き方の正直さを
飛躍的に真実の人間愛として認めさせる.
中村の母(阿川佐和子)の存在は
斉藤にとって
仕事をして稼ぐ根拠であり
生きる理由であったのだ.
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LGBTを登場人物に設定することで
テーマ,ストーリーが
ある方向にすすむ.
この点では
草彅剛の『ミッドナイトスワン』(2019)
から着想をえている描写が
いくつかある.
『ミッドナイトスワン』は
性自認じたいを本人がとらえきれずに
苦悩していくのだが
『エゴイスト』は
性欲をおさえるのではなく
性交渉が避けられない,必要な行為として
繰り返される.
しかしどちらも「愛」を
普遍化しようという
構想があり,それは結実している.
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『エゴイスト』は原作が小説であり
『ミッドナイトスワン』は映画のための脚本であるが
文学的な想像力と共時性は後者がすぐれている.