『張込み』野村芳太郎監督,松竹,1958.
松本清張の小説を読んだことはないのだが,
映画やテレビで気が付けば,
たいがい見ている.
といっても,たいがいの筋は憶えていない.
wikipediaでみると
『張込み』はこの映画以降,
テレビで繰り返しドラマ化されているようで,
私はたぶん見ているはずだが
この映画をみても何も思い出さなかった.
***
若い柚木(大木実)とベテランの下岡(宮口精二)の
2人の刑事が
強盗殺人の共犯者の男が
別れた女のもとに連絡してくるだろうという
あたりをつけて,女の家の前にある宿で
張込みを続ける,というプロット.
その女,さだ子(高峰秀子)は
50代くらいの銀行員の後妻として
3人の継子育てていた.
この映画は,とにかく懐かしい光景が
繰り返される.
銀行員の家だから
かなりきっちりした一軒家.
まず竹垣.
私のこどものころ,
金持は岩組と生垣だったが,
垣根や塀がある庶民の家はめずらしかった.
さだ子が料理する台所は,板張り.
私の知っている家は,
たいがい調理は土間であった.
汽車に乗っている,若い柚木刑事は
ランニングシャツである.
1960年代
若い日本人は
ランニングシャツ姿,
戦前生まれは半そでシャツ.
下着として売られていたが
当時の日本は30度をこえると暑い!と
大騒ぎしていたから
ランニングシャツは機能的な衣服でもあった.
戦前までは,男はふんどし一丁
上半身裸の人も多かったらしい,
土ぼこりを上げるバス.
バスには車掌さんがのっていて
車掌さんから現金で切符を買う.
(懐かしすぎる)
土のままの道路も多かった.
舗装といっても砂利道だったような気がする.
当然,列車やバスは冷房なんかなく
あっても小さな扇風機だった.
駅で切符を買うシーンも感慨深い.
駅員の後ろに,
様々な金額の切符が用意されていて
客がいった行き先にみあう切符を
とりだして渡すのだ.
***
旅館の様子,町の市場の様子.
すべてが時代として懐かしい.
佐賀市はいったことがない遠い町ではあるが
あの頃は,どの地方都市や衛星都市にも活気があった.
ほとんどの仕事が人力でなされていたのに
なぜ経済成長ができたのか.
こんにちでは
どんどん機械により人間が不要となり
思考自体もAIが肩代わりするようになるのに
生活は楽になった気はしない.
高峰秀子みたいな
美しい母親はすくなかっただろうが
当時の銀行員はけっして高給取りではなかった.
妻の仕事は,膨大にあって
急ぎの通信手段は電報を申し込まなければならなかった.
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私にとって
高峰秀子の映画をみることは
じぶんたちの昭和を思い出すきっかけであり
懐かしく,哀しい.