ペ・ドゥナの視点『あしたの少女』チョン・ジュリ監督,2022
こんな構成が可能なのか,
というのは『安楽椅子探偵』を楽しみにした世代には
わかる「出来事」と「真実」であるが,
私たち日本人は『カメ止め』でそのもっとも成功した
映画をみています.
『あしたの少女』は,さらに練られていました.
前半で,職場の現実とおいつめられて自殺した
若者(たち)をドキュメンタリーのように
追っていきます.
後半,
左遷された事務担当だった刑事(ペ・ドゥナ)が
はじめての仕事として,自殺の処理にあたります.
実習生ソヒが死んだ事情と,
その前のチーム長の自死の処理.
その謎――ではおさまらない,
社会的な意味,を考えていく
という
人間が世界を認識するための
根本を問いかける試みがなされています.
チョン・ジュリは『わたしの少女』の監督で,
8年ぶりの第2作.
あのときの,ペ・ドゥナもかっこよかったのですが
ここではたくましさが加わり
すでにいぶし銀の域にたっしています.
権力の側にいながらも
ぎりぎり末端の存在として,
世界にたちむかおうとするのです.
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近所のおっさんたちの中で
韓国映画やドラマを好んでいるのは
私だけです.
わざわざ,金出して,うっとおしい
映画をみたくない,といってくれます.
(実際は,キムチは食べるし,ソウルにはいくが
韓国人に気を許していないようす)
でも,映画館にいくと
少ない観客の6, 7割は
私たちじいさんで,ひとりできています.
(私がこれをみた日,同い年くらいの
じいさんが,昼飯ぬきで,すぐ次のソンミン作品を
見に入っていました)
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(私は言いたいのです)
大阪での
韓国映画の明るいうちの上映を
ささやかに
ささえているのは
私たち高齢の男性である
ということ.
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『あしたの少女』は
低予算映画だと思います.
しかし,映像はきれいだし
低予算をのりこえるだけの脚本,
と演出の工夫がなされています.
かつて
コン・ユの『トガニ』(2011)が
実際の事件を描いていることに
驚かされたのですが.
この『あしたの少女』は
事件だけではなく
それを取り巻く社会,
その中であえぎくるしむ若者たちの
姿をとらえることにも
成功しています.