小津安二郎監督『麦秋』1951
何度もテレビで放映されてきているでしょうが,
私は,たぶん見ていない.
若いころは,
欧米の映画のほうが圧倒的におもしろいと
思っていたので,
寅さんも角川も1本ずつしか見ませんでした.
**
黒沢,小津は
1960年代には大御所であり
1970年代には映画の教科書のようになり
1980年代には,分析・論評対象の作品になってしまって
(そのためか,日本映画は失速)
私は,鈴木清順や次の勅使河原,大島渚のほうに興味がいき,
実際はヨーロッパ映画を見ていました.
あらためて50年代,60年代の映画におもしろいものがあって,
小津も死ぬまでに確認しておかなければいけないような気がしたのです.
**
『晩春』をみてから『麦秋』をみると
『麦秋』のほうがホームドラマとして楽しい.
祖父,両親,兄(笠智衆)夫婦とその息子兄弟(甥)という4代の家族の中に,
全員をつなぐ役割の紀子(原節子)がいます.
50年代の映画はたしかに
研究資料として大切なことがわかります.
撮影技術やカメラの機能は
現代のほうがはるかに優れているのでしょうが,
作品の中には,時代がそのまま
記録されています.
**
28歳の紀子が中心であるのに,
周りの人たちは,
彼女が嫁入りすることを
彼女のためだと,考えています.
男も女も,結婚して家庭をもつことが
生きる意味の第一におかれています.
**
明治時代ころまでは
江戸・東京の庶民の男が妻帯するためには
相当の努力が必要でした.
この作品がつくられた1950-51年は
朝鮮戦争が始まって,日本は
高度経済成長にはいっていきます.
家庭,マイホームは都会でくらす人々の理想で
した.
『麦秋』の家庭は,現実のようにみえながらも
理想化された家庭が描かれています.
紀子の家は北鎌倉にあり
兄(笠智衆)は医師であり,
父は学者.
小姑の紀子は兄嫁と仲良く家事をおこない
甥たちの面倒をみています.
甥たちは,模型の列車を走らせています.
高価な「ショートケーキ」を
夜中,子どもにかくれて兄嫁と紀子で
たべようとしたり
紀子ひとりでお茶漬けをたべるシーンは
原節子がめだつ美人なので
なんとな不釣り合いな感じなのですが
戦後の雰囲気がよくでています.
冒頭近くで
おぜんを囲んでいて
甥たちにごはんをよそうシーンは
楽しくなりました.