『イモン』2019,韓国
「異夢」とは,かっこいい題名である.
日本の朝鮮占領の歴史が題材であり,
それに抵抗する人々が描かれている.
国家権力は軍隊と警察をもつのだが,
複雑なのは,朝鮮の国家権力の上に
日本の権力(総督府と軍部)がいるという
政治状況.
京城の美しい女医を中心として
ドラマは進展する.
彼女じたいが
歴史の深い闇につつまれていたのだ.
日本軍に殲滅された村の生き残りの少女を
日本の軍医ヒロシが
救い,じぶんの幼女とする.
日本国籍をもち
朝鮮名をなのり,
医学までみにつけさせ,
お嬢様として育った.
**
じぶんは,朝鮮人であるのか,
日本人であるのか.
これは,
政治的なテーマと同時に
内なるテーマとして
さまざまな人間に
リアリティーをあたえる.
***
(話はそれる)
歴史大作である『異夢』は
セット,大道具・小道具とも
ていねいに準備されている.
イ・ヨンジン(イ・ヨウォン)が日本統治下の京城らしき町を
うろつく様子を
遠くからキム・ウォンボン(ユ・ジテ)が見守っているシーンの
屋台や建物の日本の張り紙には日本語でそれらしい,時代を感じさせる.
何度かでてくるコーヒーを飲むシーンでは
趣味のいいカップが毎回異なり楽しませてくれた,
しかし,
主役のヨンジンが
日本人の養女として和装をしたとき
違和感を感じた.
ヨンジンは
軍医であり総督府病院副院長の養父に
お嬢様として育てられてきた.
しかし.パーティーで正式な和装をしたはずが
遊女のイメージの着こなしであった.
日本人から見れば
襟元に違和感がある.
おそらく着付け師が
映像で調べて,着せただけであろう.
その他すべてが
とことん努力して
凝っているだけに
主役をもっとも美しく見せる場面において
手を加えすぎた,と思われる.
※韓服のほうがすっきりしたはずだが,
日本人か朝鮮人か,というテーマを
表したかったのだろう.
ドラマの質を削るほどのものではない.
**
『イモン』がおもしろかったのは
3人の個性的な日本側の人物がいたからだ.
ヨンジンをすきになる日本人,
フクダ検事(イム・ジュファン).
この人がいてくれることで
日本人として
なんとか体面をたもてたともいえる.
マツウラ警部(ホ・ソンテ).
寡黙で有能な日本の刑事,
実は(日本に忠誠をちかった)朝鮮人.
日本が統治しているのだから
公務員としてはしかたがないが,
セリフにはなっていない本人の懊悩が
表情にあらわれている.
大韓民国臨時政府側の密偵が
ヨンジンではないかと
ずっと疑い続け,逮捕しようともがく.
***
さいごに,
もっとも魅力的な日本人はヨンジンの養父「ヒロシ」
彼は,自己の内面をそとにもらさない.
自分自身のことばにできない,といえる
典型的な日本軍人である.
しかし,養女ヨンジンの精神が
日本から離れていくにしたがって
自分が,そのあわれな朝鮮人のこどもを
大切におもってきたことに
思い当たる.
いや,そのようにみえる演技なのであう.